自動車購入補助の予算枯渇か、各地で申請停止に――販売への影響も懸念

経済の減速傾向が一段と鮮明になる中にあっても、中国の自動車市場は過去1年間、成長を維持してきました。その背景には、中国政府が推進する「古い車から新しい車への買い替え(以旧换新)」などの補助金政策が、重要な役割を果たしていることが挙げられます。
統計によれば、今年第1四半期における全国の乗用車買い替え販売台数は279.3万台で、前年同期比で100.2万台増加しました。そのうち、古い車からの買い替えが203万台、廃車を伴う買い替えは46万台に上ります。
全国乗用車市場情報連席会(乗連会)のデータによると、3月24日から4月24日までのわずか1か月間に「古い車からの買い替え」申請件数は120万件増加。個人ユーザーのうち、車の増車や買い替えを行った層が全体の約70%を占めました。中国汽車工業協会(CAAM)も、今年の自動車消費における買い替え比率は65%を超えると予測しており、消費構造の大きな変化が浮き彫りになっています。
このような補助金制度は、古い車の買い替えや廃車に対するインセンティブを通じて直接的に消費を喚起し、自動車市場を牽引する重要なてこ(レバレッジ)となっています。しかしながら、現在この「政策による恩恵」は見直しの局面を迎えています。
最近では、河南省、甘粛省、新疆ウイグル自治区、重慶市、瀋陽市など、多くの地域が自動車買い替え補助の申請受け付けを停止する旨の通知を相次いで発表しました。
たとえば河南省では、鄭州市が6月18日0時をもって申請の受け付けを停止。申請を希望する場合は、それまでに古い車の譲渡および新車の購入手続きを完了する必要があり(領収書と登録日が基準となります)、すでに申請済みの人は、9月1日までに必要書類を修正・補完しなければなりません。洛陽市や許昌市でも同様の条件が設けられていますが、停止のタイミングは異なります。洛陽市は6月12日24時、許昌市は6月13日正午12時をもって受け付けを終了しています。
こうした措置の背景には、各地に割り当てられた補助予算がすでに使い果たされた事情があります。中国政府は今年、超長期特別国債を通じて総額3000億元の補助金を拠出しましたが、その配分は段階的に行われており、これまでに支給されたのは第2回分までの計1620億元にとどまっています。第3回の資金は未配分であり、この資金配分の遅れにより、多くの地域では初回分を使い切った段階で補助金の継続が難しくなり、やむを得ず「一時停止」に踏み切ったのです。
たとえば重慶市では、1台あたり最大1.5万元(約30万円)の補助金が支給されており、現在までに申請された金額は21.5億元(約430億円)に達し、初回の地方財政枠を大幅に上回っています。
こうした状況を受けて、「監督強化の一環として一時停止された」とする見方もあります。一部のディーラーや自動車メーカーが「架空販売」や「ゼロキロ中古車」などの手法を用いて不正に補助金を取得していた事例が報告されています。中には中古車業者と結託し、廃車を装った架空取引で補助金を申請するケースもあり、市場秩序を乱す要因となっていました。政府はこうした問題に対応するため、今後さらに監視体制を強化するとみられます。
また、「政策以外にも季節的な要因を無視できない」との声もあります。6月から8月は例年、自動車販売が冷え込むオフシーズンにあたるため、補助金を継続したとしても、その効果が限定的となる可能性があります。この時期に補助金を一時停止することで、地方財政への負担を軽減するとともに、制度の見直しや不正防止策の検討を進めるための「猶予期間」として活用できる面もあります。
いずれにしても、補助金の一時停止と販売のオフシーズンが重なることで、自動車販売の短期的な落ち込みは避けられないとみられています。補助金停止により購入コストが直接的に上昇するため、予算に余裕のない層が購入を先延ばしにし、「様子見」姿勢が一段と強まる可能性があります。
注意すべきは、この補助金政策が「完全に終了したわけではない」という点です。中国政府は当初から、この制度を2025年12月31日まで継続する計画を掲げており、今回の停止もあくまで「第2回分までの予算が使い切られたこと」による一時的な措置にすぎません。今後、資金の再配分が行われれば、申請受付は再開される見通しです。
とはいえ、長期的に見ると、より注目すべきは来年以降、補助金政策が全面的に終了した後の市場動向です。現在の政策によって「将来の需要を前倒しで消費している」状況において、自動車市場が次なる成長の原動力をどこに求めるのかは、短期的な販売減少以上に注意が必要な課題といえるでしょう。