中国自動車業界、「60日支払いサイト」導入に現実的な壁とリスク

6月10日以降、サプライヤーへの支払いサイト(支払い期日)を「60日以内」に統一する方針が中国の自動車業界で注目を集めています。6月11日時点では、FAW(一汽)、東風、GAC(広汽)、長安汽車、Geely(吉利)、BYD、GWM(長城)、Chery(奇瑞)、シャオミ(Xiaomi Auto)、NIO(蔚来)、XPeng(小鵬)など、17社の主要自動車メーカーが相次いで「60日以内」統一方針を表明しています。

しかしながら、現時点では、自動車メーカーの実際の支払いサイトは60日を大きく上回っているのが実情です。経済紙「第一財経」の調査によりますと、主要12社の買掛金回転日数の平均は約170日であり、これは60日を大幅に超える水準です。例えば、BAIC BluePark(北汽藍谷)は248日、Xpengは233日近くであり、公式発表上では比較的短期とされるGACやBYDでも、支払いサイトは108〜127日に達しています。

一部の完成車メーカーは、納品の検収を意図的に遅らせたり、商業手形やサプライチェーン・ファイナンスプラットフォームを活用することで、支払いを実質的に先送りし、無利子での資金調達を実現しています。これにより、資金負担は上流の部品サプライヤーに転嫁され、彼らの資金繰りに深刻な影響を与えています。業界内では、「形式上は60日以内での支払い」としながらも、実際には資金回収が遅れている例が散見されます。

この支払いサイト短縮方針に対して、サプライヤー側は歓迎の意を示しているものの、実際の履行については懐疑的な見方が少なくありません。業界メディアでは、以下のような懸念点が指摘されています。

1. 起算点が不明確で実行に幅がある

「60日」の起算点が明確に定義されていません。納品日なのか、検収完了日、請求書発行日、あるいは手形発行日なのかによって、実際の支払日が大きく変わる可能性があります。たとえば、サプライヤーが納品してもメーカー側が検収を遅らせた場合、60日ルールの形式は守られても、実質的には支払いが遅延することになります。

2. 非現金支払い手段による実質的な延長

多くのメーカーは「商業手形の使用停止」を明言していません。支払いが手形や電子債権などで行われる可能性があり、サプライヤーはそれらを換金するために追加の時間や費用(割引料)を要することになります。このため、60日以内の「支払い」が行われたとしても、実質的な資金回収にはより長い期間が必要となります。

3. 検収プロセスが長く、主導権がメーカー側にある

検収プロセスが冗長で、サプライヤー側がその進行をコントロールできないことが課題となっています。メーカー側が検収を意図的に遅らせることで、納品後も次のステップに進めず、資金回収が遅れる可能性があります。そのため、一部では「検収を早めるための便宜費用」が発生するなど、非公式な負担が懸念されています。

4. 自動車メーカーの資金負担と履行リスク

現在の支払いサイトが平均170日にも達している中で、これを60日に一斉に短縮すれば、メーカー側には大規模な前倒し支払い負担が生じます。たとえば、BYDや吉利などの大手メーカーでも、平均支払期日は120日前後であり、60日への対応には数百億元規模の追加運転資金が必要とされます。特に、NIO(蔚来:87.45%)、SERES(賽力斯:87.38%)といった高い負債比率を抱える企業では、キャッシュフローの悪化により、支払い短縮が資金繰りの逼迫を招く可能性があります。

5. 監督・強制力の欠如

現時点では、支払いサイトの統一は各社の自主的な表明にとどまっており、具体的なルールや実施基準は公表されていません。行政的な監督や罰則制度も明確ではなく、法的拘束力にも限界があります。仮に「中小企業の支払い遅延防止条例」が改正されたとしても、サプライヤー側は取引先との力関係の中で、実際に異議を唱えることは困難であると見られます。

6. サプライチェーン・ファイナンスによる「逃げ道」

BYDの「迪鏈(Dチェーン)」や、GWMの「長城鏈(長城チェーン)」など、多くの自動車メーカーは独自のサプライチェーン金融プラットフォームを運用しています。これらは、支払いサイトの形式的な履行と引き換えに、サプライヤーに対して割引融資を提供し、実質的な資金調達コストを押し付けているとの批判もあります。

7. 「支払サイトの60日ルール」が自動車メーカーに資金圧力とリスクをもたらす

支払期間を60日に統一することは、自動車メーカーにとってキャッシュフローおよび信用管理に関する重大な試練となります。現在、多くの自動車メーカーでは買掛金の支払期間が60日を大きく超えており、これを一斉に短縮することは、前倒しで多額の資金支出を強いられることを意味します。たとえば、支払期間が170日から60日に短縮されると、およそ3〜6か月分の“無利子融資”に相当する資金メリットが失われることになります。

BYDやGeely(吉利)など、企業規模が大きいメーカーであっても支払期間は120日前後に及んでおり、これを60日に短縮するには数百億元規模の追加運転資金が必要となる可能性があります。

さらに、高い負債比率を抱えるメーカーではリスクが一段と高まります。たとえば、NIO(蔚来)の負債比率は87.45%、SERES(賽力斯)は87.38%に達しており、いずれも資金を大量に消費する体質です。キャッシュフローが逼迫しており、資金調達の選択肢も限られる中での支払期日短縮は、資金繰りのさらなる圧迫や、資金チェーンの断裂リスクを引き起こすおそれがあります。

加えて、事業拡張や研究開発投資にも制約が生じる可能性があります。現在は新エネルギー車(NEV)分野への投資が最盛期にあり、多くの自動車メーカーが資金を生産能力の拡充や技術開発に充てていますが、仕入先への支払いを前倒しすることで、非中核領域への投資削減や、企業変革のスピードが鈍化する可能性があります。

また、信用リスクや債務不履行リスクの増加も懸念されます。資金のやりくりに失敗したり、約束した支払期日を守れなかった場合には、企業の信用が損なわれ、仕入先からの集団的なクレームや、将来的な協業関係の悪化を招く可能性があります。

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