Chery、日本市場へ「黒子参入」――オートバックス連携で「日本ブランドEV」展開へ

5月11日、中国自動車業界で大きな注目を集めるニュースが伝わりました。Chery(奇瑞汽車)が、日本のカー用品大手オートバックスセブン(AUTOBACS SEVEN)などと連携し、日本市場で中国生産のEV(電気自動車)を販売する計画が浮上したのです。一時は「中国車メーカーが日本市場攻略に乗り出した」との見方がSNSなどで急速に拡散しましたが、その後、Chery側が説明を行い、実態はより複雑な構図であることが明らかになりました。

Cheryは、第一財経や新浪汽車など中国メディアの取材に対し、「EMTというプロジェクトに複数株主の一社として出資しているのみであり、経営・運営には関与していない」と説明しました。

Cheryが出資するEMTプロジェクトは、オートバックスセブンなどが共同で進める合弁事業で、日本市場向けに中国生産EVを販売することを目的としています。登記上の所在地はシンガポールで、国際的な資本運営では一般的なスキームが採用されています。一方、実際の事業運営を担う中核会社は、横浜に拠点を置く開発・販売会社EMTです。

EMTの技術チームには、ホンダやマツダなど日本メーカー出身の技術者が参加しており、日本市場向け車両の開発を担当します。車両プラットフォームには、CheryがEV分野で蓄積してきた技術が活用され、電動パワートレインや運転支援技術なども含まれるとみられています。

また、車載動力電池については、中国の電池メーカーであるGotion High-Tech(国軒高科)が供給を担います。生産面では、初期段階は江蘇悦達汽車が中国国内工場で製造を行い、コスト競争力を確保する方針です。一方、EMT側は日本の道路環境や法規制、消費者ニーズに合わせたローカライズや商品調整を担当します。

計画では、2027年に初の量産EV投入を予定しており、2029年前後までに計4車種を市場投入する方針とされています。価格帯は大衆向けを想定しており、日本メーカーの高価格帯車種との正面競争を避ける戦略とみられます。

今回の特徴は、「Cheryブランド」を前面に出さない点にあります。EMTは、日本市場向けの独自ブランドとして展開する方針で、日本国内でのブランド受容性を高める狙いがあります。

販売網については、オートバックスセブンが日本国内で展開する約1200店舗のネットワークを活用する計画です。中国メーカーにとって大きな課題とされてきた販売・サービス網の構築を、既存チャネルの活用によって補完する形となります。初年度には数百カ所規模の販売・サービス拠点整備が検討されています。

こうした内容を踏まえると、現時点でCheryが自社ブランドとして日本市場へ直接参入する計画は確認されておらず、「Chery日本法人」や「Cheryブランド車の日本販売」が進められているわけではありません。EMTは独立した運営体制を持ち、Cheryは個別の経営判断には関与しない立場を取っています。

もっとも、EMTプロジェクトが日本市場で実際に成功を収められるかについては、依然として不透明な部分も少なくありません。日本のEV市場は規模が小さいほか、消費者のブランド志向や安全性、アフターサービスへの要求水準も高いためです。

その一方で、このプロジェクトは中国自動車メーカーの海外展開戦略の変化を示す事例として注目されています。従来のような「中国ブランド車の直接輸出」ではなく、現地企業や現地ブランドとの連携を通じて、現地産業システムへ溶け込む形で市場参入を図る動きが強まりつつあります。EMTは、そうした「黒子参入」の新たな海外展開モデルの一例として位置づけられそうです。

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