中国電池材料大手Semcorp、ハンガリー工場が操業停止 環境規制強化が進む

中国のリチウムイオン電池用セパレーター大手、Semcorp Group(恩捷股份)がハンガリー東部デブレツェン(Debrecen)に置く工場はこのほど、環境および消防上の問題を理由に、現地の監督当局から関連する操業の停止を命じられました。
ハイドゥー・ビハール県政府庁が公表した情報によりますと、現地の環境監督当局は6月24日、同工場の活動が統合的汚染防止管理許可(IPPC)の要件に違反しており、環境汚染がさらに拡大するリスクがあるとして、リチウムイオン電池用セパレーターの生産停止を求めました。
監督当局が公表した地下水検査の結果によりますと、工場周辺の地下水からは、アルミニウム濃度が1リットル当たり267万6000マイクログラム検出されました。これは現地の法定基準である1リットル当たり200マイクログラムを大きく上回る水準です。このほか、ヒ素、亜鉛、鉛、コバルト、カドミウム、ニッケル、バリウム、クロム、銅、マンガン、リチウム、鉄など、複数の金属元素も法定基準を超えていました。
現地メディアによりますと、調査の発端は今年2月に発生した化学物質漏えいの疑いがある事故にさかのぼります。当時、Semcorpは、漏れ出した物質は有害物質を含まない凝縮水だったと説明していました。現在、同社は汚染原因を特定するため、調査を開始したとしています。
7月1日、デブレツェン市のラースロー・パップ市長は、Semcorpに対し、「ハンガリー第2の都市であるデブレツェンから退去すべきだ」と公に求めました。また、市当局として水源が汚染される状況は決して受け入れられないとメディアに強調し、市政府が本件について刑事告発を行ったことも明らかにしました。
ハンガリーでは2021年以降、オルバーン首相が電気自動車(EV)用電池産業に力を入れ、中国や韓国などの企業から、電池、電池材料、完成車製造など幅広い分野で多額の投資を呼び込んできました。
現在、ハンガリーにはCATL(寧徳時代)、EVE Energy(億緯鋰能)、Sunwoda(欣旺達)、Huayou Cobalt(華友鈷業)、Kedali(科達利)、BYDなどの中国企業が生産拠点を構えており、主に欧州自動車メーカーや現地市場向けに供給しています。
CATLはデブレツェンに年産100GWh規模の電池工場を建設しており、投資額は数十億ユーロに上ります。BYDはセゲドに欧州初の乗用車工場を建設しており、計画生産能力は年30万台に達する見通しです。EVE EnergyもデブレツェンでBMWの次世代モデル向けに電池生産能力を整備しています。Semcorpのセパレーター事業は、こうしたサプライチェーンの一角を担うものです。
公開資料によりますと、Semcorpは2021年、650億フォリント(約1億8300万ユーロ)を投じ、ハンガリー初となるリチウムイオン電池用セパレーター生産拠点の建設を決めました。当時のオルバーン政権は、同プロジェクトに130億フォリント(約3600万ユーロ)の財政補助を行うと発表していました。
ハンガリー政府は当時、このプロジェクトについて、同国の電池産業における地位向上につながり、440人分の質の高い雇用を創出すると評価していました。
Semcorpのハンガリー第1期プロジェクトは2023年に稼働し、年産能力は4億平方メートルを超えます。公開されている調査データによりますと、同プロジェクトは同社のリチウムイオン電池用セパレーター設計生産能力の約3%を占めます。
オルバーン政権の投資誘致戦略により、ハンガリーは欧州の電池サプライチェーンにおける重要拠点へと急速に台頭しました。一方で、EV需要の伸び悩みや、電池工場の建設に対する環境保護団体の強い反発は、同政権の看板経済政策にとって課題となっていました。
また、一部の環境保護団体や地元住民は、ハンガリー当局が汚染を防ぐ能力を十分に持たず、汚染者の責任追及もできていないのではないかと懸念しています。彼らは、政府が電池関連投資を優先する一方で、環境保護を軽視してきたとみています。
今年4月のハンガリー国会選挙後、新政権は環境保護規制の強化を打ち出しました。オルバーン政権と比べ、マジャル政権はEU規則との整合性をより重視しており、投資を歓迎する一方で、コンプライアンスや所管当局の基準を満たすことを重視する姿勢を示しています。ラースロー・ゲイドシュ環境相は、政府として環境法令違反に対する罰則を強化し、より厳格な監督体制を整備する方針だと述べました。また、現地与党議員は、高汚染産業への監督を強化するための新たな監督機関を設立し、環境汚染に対する罰則制度の見直しも検討していると明らかにしています。
これまでハンガリーが中国の電池産業チェーンを呼び込むうえで、政策の友好性は重要な訴求点の一つでした。現在もその姿勢が完全に失われたわけではありませんが、条件付きのものへと変わりつつあります。投資は受け入れ、生産能力の整備も認めるものの、緩やかな規制によって地域社会が負うコストを吸収することは、もはや許されないということです。