シャオミ、自動車で世界展開へ──雷軍氏「輸出は2027年以降」、欧・ASEAN・南米に照準

シャオミのCEOである雷軍氏は、7月2日夜に行われたライブ配信において、同社は当面、海外への輸出を行わず、本格的な海外展開は2027年以降になるとの見通しを明らかにしました。現在、中国国内での注文が想定を大きく上回っており、生産能力が追いついていないことから、まずは国内ユーザーへの納車を最優先する方針です。

たとえば、最新発表された「シャオミYU7」については、発売からわずか18時間で24万台の注文が確定し、初回販売の1時間で約29万台の予約が入るなど、予想を大きく上回る盛況ぶりを見せています。先に発売された「SU7」も、高いコストパフォーマンスとスマートなユーザー体験により、中国の新エネルギー車市場で急速に存在感を高めています。このような状況から、シャオミは近く海外進出を果たすのではないかとの憶測も広がっています。

しかしながら、自動車の海外展開はスマートフォンよりもはるかに複雑であり、シャオミの経営陣もその困難さをたびたび強調しています。実際には輸出を始めていないものの、海外戦略の輪郭はすでに描かれており、欧州市場が最も重要なターゲットと位置づけられています。雷軍氏も、「2030年までに欧州での販売実現を目指す」とたびたび公言しています。シャオミのスマートフォンは欧州ですでに一定のブランド力と店舗ネットワークを確立しており、これは今後の自動車ビジネス展開において大きな強みとなります。

とはいえ、欧州市場は決して容易な市場ではありません。老舗自動車メーカーが圧倒的なシェアを握り、政策や関税、消費者の嗜好も中国市場とは大きく異なります。シャオミがこの市場で確固たる地位を築くには、数々のハードルを乗り越える必要があります。

一方で、東南アジアはシャオミが注目する重要市場の一つです。タイやインド、フィリピンなどでは電気自動車市場が急拡大しており、政策も比較的フレンドリーです。さらに、生産や物流コストが低いため、スピードを重視するシャオミにとっては適した市場といえます。すでにシャオミはタイで現地パートナーと連携を始めており、製造能力や販売チャネルの整備を進めています。

さらに、南米のブラジルやメキシコも有望な成長市場と見られています。中国製EVの販売はここ数年で急速に伸びており、市場浸透率がまだ低いため競争も比較的穏やかです。シャオミのスマートフォンは南米でも一定の認知度と流通網を持っており、自動車事業にも好影響が期待されます。

シャオミの競争優位性として注目されるのは、販売チャネルとエコシステムの構築力です。現在、海外には100店舗以上の「シャオミの家(Mi Home)」を展開しており、今後5年間で1万店舗体制を目指しています。スマートフォン、家電、自動車を一体的に取り扱うことで、販売とアフターサービスの統合を図る戦略です。また、「人・車・家」をつなぐシャオミのスマート連携システムも、若年層にとって大きな訴求ポイントとなっています。

ただし、シャオミの自動車が海外で展開されるには、さまざまな現実的課題が存在します。中国市場での人気は、ブランド力と価格の競争力によるところが大きいですが、欧州に輸出する際には関税や輸送コストが上乗せされ、価格優位性が失われる可能性があります。現在、SU7モデルの中国国内価格は20万元(約400万円)以上ですが、輸出後はさらに高くなると見られています。

欧州市場では、ユーザーのブランド認知が明確で、BMWやメルセデス・ベンツ、テスラといった高級ブランドが市場を支配しています。シャオミがこの領域に食い込むのは容易ではありません。スマートフォンでは欧州でも一定の販売実績がありますが、800ドルを超える高価格帯ではシェアが2%未満であり、自動車のように高額な商品では、ブランド信頼性の欠如がネックになると見られています。

さらに、欧州には「安価な製品」に対する根強い警戒感があり、安全性やアフターサービス、ブランド信頼などに対する要求も高いです。こうした信頼を構築するには、長期的な視点での時間と投資が必要となります。

その点、東南アジアや南米はより開かれた市場であり、中国ブランドへの受容度も高いとされています。シャオミはタイを拠点に東南アジア全体をカバーする戦略をとるとみられており、販売チャネルやブランド構築における障壁も比較的低いです。実際に、BYD(は東南アジア市場で一定の成績を収めており、中国メーカーの進出事例として参考になるでしょう。

技術面では、シャオミは「スマート運転」や「スマートコックピット」といった分野を海外展開の武器と位置づけており、各国の法規に対応するため、技術スタッフの海外採用も始めています。これらの技術が順調に導入されれば、シャオミの強みであるソフトウェア面が海外でも高く評価される可能性があります。ただし、法制度への適応や実装能力により結果は大きく左右されます。

現時点で、シャオミの海外戦略における最大の不確定要素は、足元の状況にあります。中国国内市場の安定確保、生産能力の拡大、製品ラインアップの充実といった要素が、輸出の時期や規模に直接影響を及ぼします。

総じて、シャオミが今後主に狙う輸出先は、欧州・東南アジア・南米となります。欧州は最も困難ながら高い収益が見込める市場であり、東南アジアや南米は成長スピードが早く、早期の成果が期待できる市場です。

雷軍氏はこれまで、「シャオミは長期戦になる」と繰り返し述べてきました。その海外展開が軌道に乗るかどうかは、2027年が一つの転換点となりそうです。最終的な答えは、市場が示すことになるでしょう。

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